最果ての灯

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私は、両親の都合で引っ越してくることになったこの街に初めて来た時、迷子になってしまった。 「うええん。パパっ、ママっ」 子供だったので、泣くことしかできなかった私に、良くないことが起きた。 私の近くに野良犬がやってきたんだった。見るからに狂犬そうだった野良犬を見て、私はただ佇むことしかできなかった。 野良犬が私に咬みついてこようとしたときに、一人の男の子が現れたんだ。 「え!?」 男の子は私の代わりに、腕を野良犬に咬まれてしまった。赤い血が咬まれたところから、にじみ出ている。 その男の子は咬まれた腕を軸にして犬に、一撃のパンチをおみまえした。犬は、びっくりしたのか、逃げて行ってしまった。 私はその男の子に近寄った。しかし、私は男の子が私を庇って怪我をしてしまったことに対してひどく責任を感じていた。涙でぐしょぐしょになった顔で男の子に話しかけた。 「ご、ごめんなちゃい。わたちのせいで」 「大丈夫だよ、このくらい」 男の子は笑顔で言った。とても痛いはずなのに男の子は全然気にしていなかった。 「それより、君の方こそ大丈夫なの」 男の子は自分の持っていたタオルを腕に巻いて、私に尋ねた。 「うんっ」 「君、あんまりここら辺で見ない顔だね。もしかして迷子なの」 彼は、ポケットから取り出したハンカチで私の顔を拭きながら、尋ねてきた。 「うん、パパとはぐれちゃって」 「そうか、だったらお巡りさんの所にいけばわかるよ。案内するよ」 そう言って、彼は私の手を引っ張って、交番まで連れてってくれた。 交番に着くと私はお巡りさんと一緒にパパを待っていた。男の子は、名前も言わずに、私を交番に届けて帰ってしまった。 その時、私は初めて恋をしたのだった。
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