5人が本棚に入れています
本棚に追加
「じゃあねことりちゃん!恭ちゃんと雄ちゃんに宜しく伝えといてよー!」
「はいはい、分かってるよ」
「風邪とか引かないでね!」
「そっちこそ。僕はまた来年来るから」
8月中旬の蒸し暑い日。
こっちが恥ずかしくなるくらいの大声を出す親戚達に見送られながら、僕はバス停に向かっていく。
僕は夜神ことり。都内の私立高校に通う女子高生だ。
毎年僕は夏休みを利用して、母親の実家に帰省している。僕が小さな頃には母と父、それから兄と4人で帰省していたが、母が亡くなってからは僕一人で帰省している。
大体一週間ほど実家に泊まり、近くのバス停まで親戚達と歩く。親戚達とバス停で別れた後、駅から新幹線で最寄り駅まで帰る、というのがいつものパターンだ。
母が亡くなった後も、あんな感じで親戚達は僕を歓迎してくれるから嬉しい。
伯父さんや叔母さん達と楽しく会話している内に、バス停の向かい側まで来ていた。横断歩道を渡れば、もうすぐそこだ。
「ああ、またこの日が来たよ」
「そんなに悲しまないでよ伯父さん。また来るんだから」
「そーよ!アンタが悲しんでたらことりちゃんも困っちゃうじゃないか」
「何よ!お父様もお母様も自分勝手過ぎるわ!!娘のあたしの前で離婚届なんか書かないでよ!」
「何だあの子…?」
突然聞こえてきたのは女の子の怒りが混じった声。そちらを見ると、明らかに『お嬢様』な女の子がずんずんとこちらに突き進んでくる。
その後ろから慌てた様子で駆け寄る男はこんな真夏なのにきっちりとスーツを来ている。『お付きの者』とかその辺だろう。
「落ち着いて下さいませお嬢様。奥様も旦那様もきっとご心配なされてますよ」
「どうやって落ち着けって言うのよ!アンタには分かる?親が目の前で慰謝料の額で喧嘩してるあたしの気持ちが!」
「さぞかしお辛いのは分かっています。ですがそろそろお戻りにならないと…」
「あたしは戻らないわよ!ここから一番近いお役所に行ってこれをつき出してやるの!華桜院はそこそこ名が伝わってるからまたあの二人が来たらお役所の人もすぐに分かるわ!」
「何かスゲェ怒っとんな」
「うん…」
唖然とする僕達に気付いた女の子は、僕達を見るとプイッと視線を反らした。
その後を追い掛ける男の人は苦笑いを浮かべると、僕達にペコリと頭を下げた。僕らも頭を下げる。
最初のコメントを投稿しよう!