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そして顔を上げた僕は、女の子の手の中にあったそれを見て思わず目を見開く。
―離婚届―それは間違いなく、ハンコが二ヶ所押された離婚届だった。
信号待ちの僕らはどうでもいいのか、女の子はかなり大きな声で文句を言っていた。
「今回の別荘に泊まりに行くのだって、あたし本当は行きたくなかったの!飛行機でもお庭でもお食事でもずーっと喧嘩してるあの二人を、どうしてここまで来て見てなきゃならない訳!?」
察するにこの子は両親の離婚騒動から逃げてきて、それを『お付きの者』的な人が追い掛けてるんだろう。お金持ちは大変だなあ。
僕らの隣で信号待ちをし始めた二人をガン見する伯父さんの両腕をつねる僕と叔母さん。痛みに悶える伯父さん。
その時、ビュッと強い風が僕らの後方から吹いてくる。確か今日は強風注意報が出てたな。
「ああっ離婚届がーっ!!」
スカートの裾を押さえようと手を離してしまった女の子の目の前を、自然現象で飛ばされた離婚届はヒラヒラと舞っていく。
反射的にそれを取り戻そうと女の子が手を伸ばしたが、隣にいた『お付きの者』さんに止められてしまった。
「何するの呉羽!」
「まだ信号は変わっておりません。危険ですよ」
「大丈夫よ!今なら車は通ってないから間に合うわ!さっさと離しなさい!!」
「いや、車来たぞ!」
「え?」
伯父さんの言う通り、大型トラックがこちらへ向かって来ていた。しかし距離的にはまだ近くない。女の子の言う通り、急げば間に合うだろう。
案の定女の子は『お付きの者』さんの手を振り払って道路へ飛び出そうとした。それをまた止める『お付きの者』さん。
「まだ間に合うって言ってるじゃない!離しなさいよ!」
「しかしお嬢様に万が一のことが」
「ないわよ!大丈夫!つーかこうしてる内に離婚届が行っちゃうでしょ!!」
「お嬢様、離婚届は新しく僕が用意しておきますからご安心を」
「駄目よ!新しいのじゃ意味ないの!
アレじゃないと…!!」
「あっ…!」
「お嬢様っ!!」
『お付きの者』さんの制止を振り払い、女の子は反対車線の方へ行きかけていた離婚届を追い掛ける。
「ん…くっ!」
スカートの裾を気にせず何度かぴょんぴょんとジャンプする女の子。3回目にジャンプをした時、今までヒラヒラと宙を舞っていた離婚届にその右手が届いた。
「やったわ!!」と言いながらこちらへ戻ってくる女の子。しかし、
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