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目が覚めると、そこはどこまでも真っ白な空間だった。
どこまでもどこまでも広がる白。その中で、僕は横たわっていた。
今まで眠っていたのだろうか、起き上がる時妙に頭痛がした。
―何故僕はこんな所にいるんだろう?
頭に浮かんだその疑問は、すぐに打ち消された。
あの見るからにお金持ちな女の子は風で吹き飛ばされた自分の両親の離婚届を何とかして手に入れた後、僕達の待っている歩道まで戻って来ようとした。
しかし遅かったのだ。女の子が僕らの前に通る道路に着いた時、大型トラックは既に彼女の近くにまで差し掛かっていた。
「お嬢様危ない!!」
女の子に付いていた男の人が叫ぶ。
女の子は自分に迫ってくるトラックに気付き、
「え……きゃァァァァ!?」
と悲鳴を上げ目をギュッと閉じた。
その時、僕は無意識に女の子の元へ走り寄った。
後ろから親戚達や男の人の声が聞こえた気がしたけど、気にしなかった。
僕は女の子を反対車線へ突き飛ばすと、身体中に人生最大の衝撃が走った感覚がした。
その後はあまり覚えていない。叔母さんの叫び声を妙に冷静に聞きながら、身体から「バキボキッ」と恐ろしい音がするのを感じていた。
背中から道路に倒れ込んだ時、頭の方から「キキーッ」とトラックを停めた音がした。僕が痛みを感じたのはこの辺りからだ。
「お嬢様、大丈夫ですか…!?」
「バカ!それより早く!早く救急車呼びなさい!!」
ガンガン痛む頭に、女の子の怒声が余計に響く。
「ことりちゃん!意識はあるかい!?おばちゃんの声聞こえるかい!?」
「ことりーっ!!」
首の後ろが痛い。
胸が痛い。
痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。
ひたすらに脳内をリピートする「痛い」がだんだんと薄まっていく。
「皆さん離れて!!」
ドスッ
「「うわァァァァ!!!!」」
極めつけに右目に何かが刺さった。そして刺さった異物が衝撃に逆らえずどこかへ消えた所で、僕の意識は完全に途切れたのだ。
泣き叫ぶ女の子の声と、
必死に僕に呼び掛ける二人の男女の声と、
少し遠くで何かを言っている男の人の声と、
ガヤガヤとした音を最後に聞いて。
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