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病室では茜がベッドをリクライニングさせ座っていた
まわりには親父とおふくろ
爆音を立てて、入ってきた俺に対し、茜は不思議そうに首を傾げた
ああ、よかった元気そうだ
俺は胸を撫で下ろし、茜に近づいたが
「すみません、どちら様でしょうか?」
茜に言われた言葉は俺にはまったく予想できない言葉だった
頭がふらふらする
わけがわからない
その場で立ちすくんだ
思わずおふくろを見る
悲しそうな顔でおふくろは俺を病室の外に連れていった
「あの子事故にあって…ここまでは知ってるわよね?電話で話したもの、でお医者さまに外傷はないけど記憶喪失になったって…治る可能性はあるって言うからしばらく入院させようと思うの」
おふくろはショックで何も言えなくなった俺にたくさんのことを言った
…茜が記憶喪失?
そんなバカな!じゃあ昨日までのことも全然覚えてないっていうのかよ!
「お母さんも…もちろんお父さんもすごくショックよ…でもね、あの子が治ると信じるのが親であるあたし達と、兄であるあなたの役目だと思うの」
おふくろは言った
頭では理解できるがどこかもやもやする
俺は頭を抱え、座り込む
「あの子は記憶をなくしただけだから生活には支障ないわ、でも記憶を早く戻してあげたいからできるだけ来ようと思うの、あなたも時間が空いたらでいいから来れるだけ来てちょうだい」
それだけ言い終わるとおふくろは座り込んだ俺をおいて病室へ戻っていった
仕方なく俺もついていく
俺のイスが病室に用意され、おふくろが言った
「この人はあなたのお兄ちゃんよ」
おふくろの声に覇気はない
パートで疲れて帰ってきたときよりも疲れた声だった
「お兄ちゃん…さん?」
首を傾げる笑顔はいつもの茜だった
なのに茜の言葉は俺を悲しくさせる
「さんはいらないわ、お兄ちゃんよ、あなたと一番仲がよかったお兄ちゃんよ」
おふくろは必死に説明する
俺と茜の関係を説明するのに、おふくろは5分くらい時間をかけた
「じゃあお兄ちゃん、よろしくお願いします」
いつも見ている茜の笑顔
よそよそしいお兄ちゃんという言葉
初対面のような敬語にダメージを受ける
「今日はもう遅いから帰りましょう、茜、また明日ね」
おふくろに助けられた
今日はとても疲れた
帰ったらもう寝てしまおう
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