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――そして、コケた。
「ブヘッ!」
忘れていた。
僕は鍬を担いで飛んだり走ったりできるほど体力に恵まれてはいない。
「おいおい、大丈夫か?」
軽い身のこなしで側に駆け寄ってきた会長に、僕は泥だらけの顔を向けた。
「会長……僕はもう、ここまでのようです。僕の代わりに、彼女だけでも……彼女だけはどうか、助けてください。ラグビー部の野獣共から、僕の運命の女性をどうか……」
第一、僕一人が乗り込んだところであの筋肉ダルマ達に歯が立つはずもない。
完全無欠絶対無敵の生徒会長でもなければ、救出は不可能だ。
「なんだ、彼女がさらわれたのか?」
「は、はい。以前から目を付けられていたのですが、今日遂に、奴らは強行策に出たんです」
「ラグビー部が寄ってたかって女子生徒を?なんて下劣なっ!会長、ここは学園の平和と秩序のためにも、我々生徒会が出向くべきです」
生徒会副会長――伊集院桜子の言葉に、会長は頷いた。
「そうだな。あいつらがそこまでするのは信じられんが、もしそれが本当ならば、いっちょ懲らしめてやらにゃあならんだろうな」
会長が立ち上がった。
もう安心だ。これで、彼女の無事は保障されたようなものだ。
「じゃ、寝てないで行くぞ刈谷」
「あ、やっぱり僕も行くんですね」
「当然だ。その鍬とか鍋のフタとか水鉄砲とかは置いてっていいからな」
僕は装備一式を外し、会長達と共にラグビー部の部室を目指した。
山の中にある相葉学園は、その広大な敷地面積故に、各運動部にそれぞれ専用のグラウンドが設けられている。
各グラウンドに設置されているプレハブの部室も、当然専用であり、中もそれなりに広いらしい。
僕はその野獣共の巣を前に一度深呼吸をしてから、勇気を振り絞ってドアを開け放った。
「よく聞けこの腐れ外道共!覚悟しろ、今からこの僕――に代わってこの絶対無敵の生徒会長様が、貴様らを駆逐してくれる!」
「随分と他力本願な奴だな」
会長の呆れ声は耳を素通りし、僕は室内を見回した。
まさかの生徒会長の登場に、慌てふためくラグビー部員達。
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