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辿り着いたのは、中等部特別教室校舎の東側にある敷地。
ここは昔小さな畑として使われていたようだけど、僕らが高等部に入学する前から既に荒れ果てていたらしい。
つまり、この世界に入り込んでしまった今も、ここは何にも使われておらず、中等部の敷地だから誰かの邪魔になることも邪魔をされることもない。
近くの用具庫に眠っていた鍬を引っ張り出し、シャツの袖を捲り、僕は作業を開始した。
どうやらこの世界も元の世界と同じように季節は巡るらしく、携帯の日付が正しければ五月の半ばである今日、一汗かくことは覚悟しなければいけないようだ。
「大地、土なんか耕して何やってるのさ?」
「実験さ」
「何の?」
「自給自足での学園生活は可能かどうかの」
「ふーん、じゃああたし暑いから購買でアイス買ってくるね」
「あ、僕の分もよろしく」
「実験は失敗だね」
綾子の優しいツッコミに、僕は反論しようと頭の中にごたくを並べたけれど、それを聞く前に彼女は自慢のフットワークで購買へと向かった。
―――十分後。
僕は花壇の煉瓦に腰掛け、綾子が買ってきたソーダ味のアイスを噛み砕いていた。
「自給自足への道は遠いね」
「そうでもないさ。明日は土曜日で授業は午前中しかないし、綾子がサボらなければ畑なんてすぐ完成するよ」
「ありゃ、あたしもやること前提なんだ?別にいいけどさ」
テレビもネットも使えないこの世界では天気予報なんて見れないけれど、どうやら今日は真夏日だったらしい。
こんな日に難なくアイスを二つも買ってこれるだなんて、流石は綾子。
食料調達に関してはいつも彼女に助けられている。
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