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「どう?ちゃんとトマトしてるかな?」
「大地……これ」
呆けた表情の綾子。
口の周りには赤く透明な水滴を滴らせたまま。
手には歯型が付いて少し潰れた瑞々しいトマトを握ったまま。
赤々しくて瑞々しくて、見たこともないくらい熟れまくったトマト。
毒々しく見えなくもない。
「ありえないよ、これ」
くっ、やはり異世界の果実を育ててしまったのか。
「ごめん綾子、急いで正露丸買って来てよ……」
「有り得ないくらいあんっまいよ!このトマト!最早果物だよこれ!糖度イチゴ以上だよ!」
「え、うそ」
「ホントホント、大地も食べてみなって」
「いやいやいや、僕は騙されないぞ。だってたまに水あげるのサボったし、葉っぱなんて一部枯れてるし、そんな上質なトマトができるはずな」
「いいから食べなって!」
「も、もがっ!?」
口の中に捻じ込むように、否、ブチ当てるように、綾子はトマトを僕の顔面下半分に食らわした。
濃厚な果汁とぶるぶるの果肉とぶちぶちの種が、僕の口の中に溢れた。
そんな、トマトがイチゴを越えるはずが……
「甘っ!!トマト甘っ!」
実験の結果分かったこと。
この世界で野菜を育てることは可能であること。
そして、僕にはトマト作りの才能があったこと。
もう一つ、おいしい野菜を作るってのは、思っていたより楽しいってことも。
七月半ば、明日から夏休みというこの日。
こうして、僕の農家としての才能と情熱が開花したのだった。
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