第一話「自給自足への道」

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  「どう?ちゃんとトマトしてるかな?」 「大地……これ」 呆けた表情の綾子。 口の周りには赤く透明な水滴を滴らせたまま。 手には歯型が付いて少し潰れた瑞々しいトマトを握ったまま。 赤々しくて瑞々しくて、見たこともないくらい熟れまくったトマト。 毒々しく見えなくもない。 「ありえないよ、これ」 くっ、やはり異世界の果実を育ててしまったのか。 「ごめん綾子、急いで正露丸買って来てよ……」 「有り得ないくらいあんっまいよ!このトマト!最早果物だよこれ!糖度イチゴ以上だよ!」 「え、うそ」 「ホントホント、大地も食べてみなって」 「いやいやいや、僕は騙されないぞ。だってたまに水あげるのサボったし、葉っぱなんて一部枯れてるし、そんな上質なトマトができるはずな」 「いいから食べなって!」 「も、もがっ!?」 口の中に捻じ込むように、否、ブチ当てるように、綾子はトマトを僕の顔面下半分に食らわした。 濃厚な果汁とぶるぶるの果肉とぶちぶちの種が、僕の口の中に溢れた。 そんな、トマトがイチゴを越えるはずが…… 「甘っ!!トマト甘っ!」 実験の結果分かったこと。 この世界で野菜を育てることは可能であること。 そして、僕にはトマト作りの才能があったこと。 もう一つ、おいしい野菜を作るってのは、思っていたより楽しいってことも。 七月半ば、明日から夏休みというこの日。 こうして、僕の農家としての才能と情熱が開花したのだった。
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