第二話「生徒会長」

3/9
前へ
/205ページ
次へ
生徒会長は言った。 「みんな、落ち着いてくれ。落ち着いて、今俺達にとって一番大切なことを考えてくれ」 生徒達は耳を傾けた。 「それは、“俺達が変わらないこと”だと思う。もちろん、成長や進歩をしないという意味じゃない」 生徒会長は声を上げた。 「俺達は学生だ。高校生だ。何があっても、それを変えちゃならない。それを忘れちゃならない」 生徒会長は誓った。 「約束しよう。必ず、この状況から脱却する方法を見つける。俺の生徒会長という肩書に誓って、お前らみんなを元の生活に戻す。必ずだ」 生徒会長は頼んだ。 「だが、それにはどれくらいかかるか分からない。この状況では、まだまだ何も分からない。だから、俺が元の生活に戻る方法を見つけるまでの間、みんなには今まで通り高校生でいて欲しい。突然この状況から脱却した時、今まで通りの生活にすぐ戻れるように」 生徒会長は説明した。 「だからみんなには今まで通り授業に出て欲しい。学力向上とまでいかなくていい。机に向かう習慣を忘れなければそれでいいんだ。そうだな、時間割通りの教科を、各時間最低教科書一ページ。それだけでいいんだ。あとは教室内であれば何をしていても構わないし、生徒会に申請してくれれば課外授業も積極的に許可しよう。体育の時間は体操着に着替えてテキトーに遊んでればいい。毎日が自習なんだ。お前らなら、できなくはないだろ?」 生徒会長はそう言って笑い、全校生徒を魅了した。 この世界が不思議ならば、彼の存在もまた、不思議と呼べるものだった。 この学園には、不良はいない。 彼がとっくに全員更生させていたから。 この学園には、彼の言葉に耳を貸さない者はいない。 とっくに彼のことを妄信しきっていたから。 彼の言葉はまるで催眠術のように僕らを操り、全校生徒は最低限の規律を維持したまま、自由な学園生活をいつしか楽しむようになっていた。
/205ページ

最初のコメントを投稿しよう!

902人が本棚に入れています
本棚に追加