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熱い空気が籠った道場に涼しい風が吹き抜けた
高く結い上げられた黒い髪を風が優しく撫でる
朝月楓(あさつき かえで)は一瞬だけ目を細めると、ヒュンと音を立てて竹刀で空を切った
「あ!やっぱりこんな所にいたな、バ楓!!」
入口に目を向けると、親友の鈴子が仁王立ちして頬を膨らませていた
静まり返った道場に響く元気な声
「もう!明日から修学旅行なのに、どうして練習してるのよ!今日は部活休みでしょ!?」
鈴子がいうように、明日から修学旅行があるため、今日は部活が休みだ
そのため、道場には私達しかいない
「だって、明日だと思うと…ソワソワしちゃって」
竹刀の柄を握りしめて気持ちを落ち着ける
折角落ち着いてきていたのに、鈴子のせいで台無しだ
「はぁ…大好きな土方歳三がいた屯所にいけるんだもんね。気持ちは分からなくもないけど、少しは『新選組』についても勉強したら?」
修学旅行の行き先は京都
初日から自由行動が許されているため、私は八木邸に行くつもりだった
「えぇ……、私は土方さんが好きなのであって新選組は…」
「っていうより、歴史が苦手なんでしょ?」
はぁ、とため息をつく親友は流石だ
私の苦手教科まで把握しているとは…なかなか
「そんな事はどうでも良いから、そろそら帰らない?」
「そんな事じゃないし!!」
私が今までどれ位この修学旅行を待ちわびていた事か!!
無意識に鼻息が荒くなる
あぁ…道場では平常心、平常心…
大きく息を吸って、ゆっくりと吐き出す
「急いで着替えてくるから、ちょっと待ってて!」
「3分で戻ってきてね?」
「稽古明けの友達に対して血も涙もないな!!」
ふふふ、と笑う親友を置いて更衣室に駆け込んだ
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