ハグルマ

2/7
前へ
/274ページ
次へ
熱い空気が籠った道場に涼しい風が吹き抜けた 高く結い上げられた黒い髪を風が優しく撫でる 朝月楓(あさつき かえで)は一瞬だけ目を細めると、ヒュンと音を立てて竹刀で空を切った 「あ!やっぱりこんな所にいたな、バ楓!!」 入口に目を向けると、親友の鈴子が仁王立ちして頬を膨らませていた 静まり返った道場に響く元気な声 「もう!明日から修学旅行なのに、どうして練習してるのよ!今日は部活休みでしょ!?」 鈴子がいうように、明日から修学旅行があるため、今日は部活が休みだ そのため、道場には私達しかいない 「だって、明日だと思うと…ソワソワしちゃって」 竹刀の柄を握りしめて気持ちを落ち着ける 折角落ち着いてきていたのに、鈴子のせいで台無しだ 「はぁ…大好きな土方歳三がいた屯所にいけるんだもんね。気持ちは分からなくもないけど、少しは『新選組』についても勉強したら?」 修学旅行の行き先は京都 初日から自由行動が許されているため、私は八木邸に行くつもりだった 「えぇ……、私は土方さんが好きなのであって新選組は…」 「っていうより、歴史が苦手なんでしょ?」 はぁ、とため息をつく親友は流石だ 私の苦手教科まで把握しているとは…なかなか 「そんな事はどうでも良いから、そろそら帰らない?」 「そんな事じゃないし!!」 私が今までどれ位この修学旅行を待ちわびていた事か!! 無意識に鼻息が荒くなる あぁ…道場では平常心、平常心… 大きく息を吸って、ゆっくりと吐き出す 「急いで着替えてくるから、ちょっと待ってて!」 「3分で戻ってきてね?」 「稽古明けの友達に対して血も涙もないな!!」 ふふふ、と笑う親友を置いて更衣室に駆け込んだ
/274ページ

最初のコメントを投稿しよう!

121人が本棚に入れています
本棚に追加