小姓

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「まだ怒ってるわけ?」 はぁ、とため息をつきながら部屋に入ってきた先生は相変わらず自分で髪の毛を拭く気はないらしく、濡れたまま髪を結い上げている 壬生寺から帰ってきて、先生と気まずかった期間は別の部屋で過ごしていた私だけど、前のように接することが出来るようになってからは、先生の 「離れてると不便だから早く戻って来なよ」 という、あまりに自分勝手な理由から再び同室になっていた 「だって、為三郎のやつ、私に会うたびに喧嘩売ってくるんですもん」 「………」 「あっ、これだから餓鬼は困るとか思いましたね!?」 口に出さなくても表情でわかるんだからなっ、こんちくしょう! 「そんなことより」 そんなことだと!? 軽く流されてムッとしていると、先生が私とは別の場所を見ていることに気づいた 暑そうに寝間着を着崩して、団扇で自分を扇ぐ先生の髪の毛がゆらゆらと揺れ、その目は私の後ろへと向けられている なんだ? その視線を辿るように振り向くと、そこには私のバッグがあった 今まで、私の持ち物にはノータッチだった先生がバッグを凝視していることに気づいて緊張が走る 「わ、私の荷物が何か?」 じーっ、と荷物を見る先生 ドキドキしながら次の言葉を待つ 「前から思ってたんだけどさ」 「は、はい…」 「アレ、なに?」 指差す先生は明らかに私のバッグを指差しており、よく見るとチャックの隙間から未来から持ってきた物が飛び出しているのに気づいた あ、あれは!! それは、白くてモコモコとした…この時代にはないモノ 「あ、あれですか?」 「そう、あれ」 物凄く興味津々といった風に凝視されている白いタオル 髪の毛が長い私にとって手拭いだけで髪の毛を拭くのが大変で、密かにタオルを愛用し続けていた バレないように洗濯して干したのに、急いでしまったせいでバッグから飛び出してしまっている
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