小姓

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ここまできたら誤魔化しきれない それに、タオルを知られたところで未来が大きく変わるとは思えないし…まぁ、いっか バッグの隙間から飛び出しているタオルを取り出して、先生に手渡す すると、興味深そうに触って「何これ?」と首を傾げた 何これ、と聞かれても… 「我が家に代々伝わる幻の手拭いです」 「……………」 「っていうのは嘘でっ、タオルって言いますぅぅぅぅ!!!」 じとっと向けられた冷たい目に耐えきれずに白状すると、先生は「ふ~ん」と呟いてタオルをもふもふと触りだした 何も言わないけど、どうやら触り心地が気に入ったらしい 「貸してください」 なので、今日は先生の髪の毛をタオルで拭くことにした 手渡されたタオルを持って先生の背後に回ると、いつも通りに髪の毛を拭き始める いつもなら直ぐに手拭いが濡れてしまうんだけど、タオルのおかげで楽に水気を取ることが出来た 「気持ち良いね、それ」 タオルが気に入ったらしい先生は背中を向けたまま気持ち良さそうに髪を拭かれている さらさらと流れる髪の毛を引っ張らないように拭きながら、タオルの便利さに感激した タオルって偉大だっ もっと持ってくれば良かったなぁ… 修学旅行の荷造りをしていた当時は出来る限り荷物を減らしたくて、タオルは小さいもの一枚しか持ってこなかった タオルなら旅館にあったし、まさかタイムスリップするなんて思ってなかったんだから仕方ない 家に沢山あったタオルを思い出したら、すごく恋しくなった 手元にないと気づくよね、物の大切さって 未来にあるタオルに思いを駆せていると、髪の毛を拭いていたタオルを、くいっと引っ張られた どうしたんだろ? 「なんか良い匂いするけど、なに?」 どうやらタオルから香る匂いが気になったらしい 私の体臭です、って答えたら肘鉄を食らった まさかの衝撃に「ぐほっ」と女とは思えない声を上げる ちょっ、冗談なのに!! だって、柔軟剤の香りですだなんて言えないじゃないか!! ここへ来て何度もタオルを使ったわけではないため、まだ柔軟剤の香りが残っているのだ 答えずにいると、興味がなくなったのか、目をつぶったまま黙って髪を拭かれる先生
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