小姓

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「そういえばあの時、どうやって蔵へ入ってきたんですか?」 男に蔵へ閉じ込められていた私を助けに来てくれた先生は、扉から入ってきたわけではなかった 扉は内側からつっかえ棒がされていたし、あの重い扉を開けるとなると大きな音がでる それなのに先生は誰にも気づかれることなく、いつの間にか男の背後に立っていたのだ 薄暗い中、先生の声が突然聞こえた時は物凄く驚いた だけど、驚いた直後には安心して力が抜けたのを覚えている 先生の声には安心はしたけど、目の前に剣先が迫ってて、そっちに心臓バクバクだった 髪の毛を拭きながら、そっと後ろから顔を覗き込む 黙って拭かれながら目を瞑っていた先生が「穴だよ」と答えた 「穴とは?」 まさか、私が捕まってることに気づいた先生が地面に穴を掘って蔵に侵入したというのか!? って、それ、かなり時間かからない!? 前日からスタンバってました、くらいじゃないと間に合わないよね? まさかの予知!? 前の日から必死に穴を掘る先生をイメージしてみたけど、全くイメージ出来なかった うん、あり得ないな 襲われると分かってても先生が私のために汗水流すだなんて考えられない 「少し前に、筋肉と島田さんが荷物を蔵に入れてたら、うっかり壁に穴を開けたんだよね」 えっと、筋肉というのは、もしかしなくても原田さんだよね 体格の良い二人が大きな荷物を運んで壁に穴を開けたと… やっちまった、とか言って笑う原田さんと慌てて平謝りする島田さんが容易に想像できる 「だから、新人は知らないと思うけど、あの蔵には穴が開いてる。普段は板で隠されてるけどね」 そんな事、最近入隊した早川さんはもちろん、私ですら知らなかった っていうか、蔵って大切な物を保管する場所だよね!? なのに、穴が開いてて、しかも板で隠すってどうなの!? 表は厳重な鍵で閉められてるけど、穴は板ってセキュリティ甘過ぎじゃね? しかも、先生が通れる位の穴って、どんだけ破壊してんだよ! クラッシャーか、あの人!! 脳内で馬鹿笑いする原田さんに「俺のおかげで助かっただろう」と言われ、勝手なイメージなのに、かなりイラッとした 「ちなみに、その穴のことは新人だけじゃなくて近藤さんも知らないから」 「近藤さんもですか?」 局長なのに知らないって…なぜ?
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