小姓

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少しだけ振り向いて私を見る先生 頭にかぶせたタオルと流れる髪の毛の隙間から見えた瞳は、色素の薄い綺麗な色をしている …にも関わらず、その目は『そんな事もわからないわけ?』と言いたげだ 分からないに決まってるから! っていうか、穴を板で隠すっていう適当な対処自体理解出来ないからね! 「優しくて正直者で温かくて…生真面目なのが近藤さんだよ」 「はぁ…」 突然の紹介に生返事をすると、気に障ったらしい先生の頬がぴくりと動く 「いやっ、それは分かりますけど、それがどうしたんですか?」 「穴が開いたなんて分かったら、近藤さんが謝りに行っちゃうからだよ」 謝りに行く…とは、家主の前川さん(あれ?今は八木さんが管理してるんだっけ?)にってことかな? 「って、謝らないつもりですか!?」 まさかの隠蔽!? 謝りに行っちゃうって、むしろ行かなくちゃいけないんじゃないの!? 先生が近藤さん大好きなのは知ってたけど、まさかココまでとはっ! 驚きのあまり大きな声を上げると「うるさい」と顎を強制的に上げられた いわゆるアッパーである 「謝るのは筋肉と土方さんで充分でしょ」 「島田さんは良いんですね」 まぁ、島田さんは巻き込まれた感があるから良いけど どうせ、慎重に行こうとする島田さんの意見を無視して原田さんが豪快に運んでいたに違いない 「謝るのは土方さんの仕事ってことですか?」 「当たり前だよ、副長なんだから」 当たり前だと言い切る先生 そういえば、少し前に先生が巡察中に色々な物を損壊させてくるから、たまったもんじゃねぇと土方さんが爆発してたっけ ーーー絶対に確信犯だ 「副長とか言って大きな顔で近藤さんの隣を陣取ってるからには、それくらいの汚れ役は当然だよ」 どうやら先生は近藤さんの隣にいる土方さんが許せないらしい 別に土方さんは副長の権限を使って隣にいるわけじゃないと思うけど………なぁんて言ったら、首と胴体がサヨナラしてしまうため、黙って言葉を飲み込んだ 土方さんに嫌がらせを繰り返す先生の心理がなんとなく分かってしまった 「それに、局長に頭を下げさせるわけにはいかないでしょ」 無意識に手を止めていた私から先生がタオルを奪う ふわふわと感触を確認してから、自分で髪の毛を拭き始めた
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