小姓

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タオルで髪の毛を拭く人を見るのが久しぶりだったため、懐かしさを感じつつ、先生の言葉を反芻する 新選組の局長の立場で頭を簡単に下げることなど許されない だけど、近藤さんは真面目で正直者だから、穴が開いたと知った途端になんの躊躇もなく頭を下げるだろう 止めてもきっと「いや、ここは局長の俺が」と笑顔で答えるに違いない 短い付き合いではあるけど、近藤さんならそうするだろうなって想像がつく それと同時に近藤さんが酷く反省するのも分かる 優しいからきっと、気にするだろうなって… 先生はそれが嫌なんだと思う 土方さんだって、新選組の名がどうたらとか言いつつも、やっぱり根本的には近藤さんにそんな事をさせたくないっていうのがあるんだ 土方さんにこんなに大切にされる近藤さん………良いなぁっ ニヤニヤデレデレしていると、髪の毛を拭き終えて灯りを消そうとしていた先生に「気持ち悪いんだけど」とすごく不快そうな顔で言われた 「失礼なっ」 くわっと怒った途端に真っ暗になる室内 怒りを強制終了され、私の怒った顔すら見ない先生が布団に横たわる 無視かコノヤロウ 若干いじけつつ、いそいそと衝立を立てて自分のスペースを確保してから布団に横たわる 「近藤さんにこのことを教えたら穴を開けるからね」 暗闇の中、衝立の向こうから聞こえた先生の声 早くも眠くなってきているらしい先生の声はいつもより、少しだけゆっくりで吐息が混じっている とろとろと微睡むような声は夢の中へと意識が消えそうなのに、言われたこっちは眠気が一気に吹っ飛んだ 「あの、その穴は…どこに?」 恐る恐る聞いてみる …………シーーーーーン いつまでたっても返ってこない答えにズルズルと体を引きずって衝立の向こうを覗き込む すると、目を閉じて規則正しい呼吸を繰り返す先生が見えた
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