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ガツンッ!!
鈍く甲高い音が響き、男が振り下ろした刀が為三郎の頭上で停止する
「てめぇ、何しやがる…」
ギロリと鋭い瞳が私をとらえた
目をつぶって両手で顔を庇っていた為三郎が、驚いたように顔を覗かせる
男が刀を掴んだ瞬間にしゃがみ込んで握った石は私の手を離れ、振り下ろしている最中だった刀の柄に見事に当たっていた
「お前、何者だ」
男が刀を下ろして私ににじり寄る
表情が強張ったまま私を見る為三郎の顔が視界の端に映った
「……小姓の朝月です」
誰の小姓かというのは、あえて答えずに名前を名乗る
先生に責任はないから
「あぁ、てめぇが噂の…沖田の小姓か」
私の配慮も虚しく、男は私が先生の小姓だということを知っていた
目の前まで来られた事により感じる男の威圧感に耐えるように、爪に土が入り込んで違和感のある右手を握りしめる
「為坊、家に帰りな」
男から目を逸らさずに為三郎に帰るように促す
「えっ…でもっ……」
為三郎はチラチラと私と男を見て、戸惑っている
そこにいつもの子憎たらしさはなく、子供らしくオドオドと泣きそうな顔をしていた
どうやら私を放って逃げるのが心苦しいらしい
「大丈夫だから、お帰り。次に会ったら逃がさないからな」
笑顔で言うと、為三郎は涙をぐっと堪えるように、下唇を噛みしめてから、母屋に向かって駆け出した
「で?餓鬼を逃がしたからには、お前が遊んでくれるんだろ?」
鋭い目をそのままに、ニヤリと笑って目を細めると、男は私の肩に腕を回してきた
「噂通り、女みてぇな面してんなぁ。沖田とは毎晩やってんのか?」
顎を掴まれて、逸らしていた目を無理矢理合わせられた
「やってるって何をですか?」
毎晩やってる事?
そんな恒例化してることと言えば、先生の髪の毛を拭くことくらいだ
そんなこと聞いて何が楽しいんだ、この人…髪フェチか?
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