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……………………………
「…ッ……んっ……」
旅館の寝室
何かにうなされるように寝返りをした
『…こ………いで…』
頭の中で何度も聞こえる女の声
この声は誰…?
『………めて……』
切羽詰まったような女の声が耳元で木霊する
この声はどこから…
『……せない!!!』
耳元で聞こえた大きな声に驚いて布団から飛び起きた
「ッ…ハァ…ハァ……なに、今の」
突然のことに状況が理解できず、肩で息をしながら周りの様子を見た
寝た時と変わらない古びた旅館の和室
部屋の中はまだ薄暗い
障子から微かに外の光が漏れ始めており、隣では鈴子が静かに眠っていているだけで他に誰もいなかった
「…今の声は誰?」
どこかで聞いたことのあるような、不思議な女の声
こめかみを伝ってきた汗に気づいて、額に触れてみるとびっしょりと汗で濡れていた
はだけた浴衣の胸元を見下ろすと首元も見事に濡れている
「気持ち悪い……」
浴衣があると聞いていたため、パジャマは…持ってきていない
仕方なく明日…いや、今日の服に着替えた
「まだ5:00じゃん…」
スマホの人工的な光に目を細めて時間を確認してから立ち上がる
窓を開けた途端に冷たい風が部屋に吹き込んできた
凛とした静寂に包まれた京の街を窓から見下ろす
朝は弱いはずなのに、すっきりと目が冴えている
う~ん、完璧に起きちゃったよ…
二度寝できる気がしないため散歩にでも行こうと、バッグを持って部屋を出ようとした所で視界の端で例の刀を捉えた
窓から差し込んだ淡い光に照らされたボロボロの刀
何も考えていなかった
ただ…何かに誘われるように刀を手に取ると、親友が寝ている部屋を後にした
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