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人気があまりなく静かな道を行く当てもなく、のんびりと歩いた
「早朝の散歩とか、私もついに首にタオルを巻いてせかせか歩くおばさんの仲間入りか」
なぁんて、しみじみしていると、涼しい風が頬を撫でる
澄んだ空気と柔らかな日差しが体を包みこんだ
歴史を感じる街並みに心が変に騒ぐ
私の地元だって京都と同じ時間が流れていたはずなのに、何故だろう
ここだけは違う…そんな気がするのは私だけだろうか
そんな事を考えつつ、手にも持った刀を見下ろした
傷だらけの鞘と鍔、柄はボロボロに擦り切れていて刃は刃こぼれをしている
ボロボロで汚いのに…目が離せなくなる
この感覚はなんなんだろう?
自分の事のような…他人のような…不可解な感覚に戸惑った
「っ……」
刀を見下ろしていると突然、ぐわんっ視界が捻じれ、激しい耳鳴りと吐き気に襲われた
うっ……、気持ち悪い…
目の前が歪み、立っていられなくなって川沿いに生えていた柳の木に手をつく
浅い呼吸を整えようと目をつぶると、何かが耳元で聞こえ始めた
『お願い……たす…けて……』
まただ…同じ声が聞こえる
夢だと思っていた
なのに、女の声は確かに抱えている刀から聞こえていた
『誰か……誰かっ』
ふらふらして立っていられなくなり、柳の木に倒れこむようにして座り込んだ
荒い呼吸とともに、額から嫌な汗が流れる
吐き気を耐えながら、薄っすらと目を開くと、目の前に見えている道が、ぐにゃりと捻じれた
こっ、これは本気でヤバい!!
頭の中で警報がすごい勢いで鳴り響く
視界の歪みと吐き気をどうする事も出来ず、私は意識を手放した
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