君思う

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不意に目が覚める。 「…いま何時だ?」 眼鏡を掛けていないので何も見えない。きっと今の俺は鬼の形相だろう…。 「腹減った」 ポツリと呟けば眼鏡置きに置いてあった眼鏡を掛け直す。一階に向かう階段を下ればリビングに明かりがついていた。 「まだ、起きてたんですか?」 「お、おそよう。眠り姫」 …眠り姫だと? 少しイラっとしながら声の主、光晴が座るソファに寄り添う。 「今、何時ですか?」 「夜中に2時過ぎ。晩飯だって起こしても起きないんだもんなぁ…よっぽど眠たかったのか?」 最後の記憶では20時を指していた。7時間ほど寝ていた計算になる。今晩締め切りの仕事が一本あったくらいだ。 「それよりお腹すきました」 「へいへい、何か作ってやるよ」 光晴はよいしょっとソファから立ち上がるとキッチンに向かう。暫くするといい匂いが漂ってきた。 「なに作ってるんですか?」 空腹に耐え切れず、料理している光晴の背後から覗き込む。彼は少し得意げに笑う。 「今晩のオカズは銀河が全部食べたからなぁ…残りもんで炒飯だ。んで、最後にコレ」 「…ワイン?」 「香り付けにね~。見とけよ?」 光晴がフライパンにワインを少し入れ、火をつけてアルコールを飛ばそうとした瞬間、勢いよく炎が上がる。 「あちち!水、水!」 「…っ!」 ワインは光晴が思っていたより大きく燃え、軽く火傷したのか利き手をブンブン振っている。 俺はすかさず彼の手を取れば水道水で冷やす。自分でもビックリするくらい呼吸が早い。心臓がバクバクいっていのが分かる。 「…露咲?どうした、顔色が悪いぞ?」 「…な、なんでもありません。それよりもうあんな無茶はしないで下さい。夜食なんですから簡単なもので結構です」 動揺を隠そうとついキツい口調になってしまう。光晴は叱られた子犬のようにうな垂れてしまった。俺の為にしてくれた事だったのに…。 「向こうで座ってます。出来たら呼んで下さい」 「…あぁ」 元気をなくしてしまった光晴に罪悪感を感じながらソファに持たれかかれば溜め息を吐く。 「もう、五年前の話なのに…まだ怖いだなんて情けねぇな、俺」 end
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