鶴の一声

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「なぁなぁ?なぁって!聞いてる?」 今朝からこの調子でしつこく付きまとってくる。最初は無視をしていたがそれも辛くなってきた。 「何ですか?光晴」 私が話しかければ光晴はパァッと表情を明るくさせる。 「海いこーぜ、海!」 「却下」 即答すると驚いたようにポカンと口を開ける。すぐに気を取り直してまた誘う。 「なぁ、行こーや?」 「いやです」 俺が頑なに断っていると近くを銀河が通り過ぎた。光晴はすかさず銀河を捕まれば問う。 「なぁ銀河、海行きたいよな?海」 「海?行きたい!」 銀河の言葉に不適に笑う。光晴がこの笑方をする時は嫌な予感しかしない。彼は至極残念そうに銀河に言った。 「でもよ、銀河。露咲は海行かないってさ。みんなで行った方が楽しいよな?」 「え?神郷ちゃん行かないの?」 銀河が驚いたように俺を見る。 その視線に絶えられず目を反らせば言い訳をする。 「まだ仕事が残ってますし、第一水着がありません」 そんな言い訳も2人によって論破される。 「神郷ちゃんの仕事終わるまで待つよ!」 「水着なんて買えばいいだろ?」 もう後一押し、そう確信している2人に困惑しながらどう断わってやろうかと考えると雪兎を思い出す。 「分かりました。雪兎が行くと行ったならば私も行きましょう」 みんなで中庭にいる雪兎の所へ行けば意外な返事が帰ってきた。 私の予想では雪兎は行かないと思っていた。 「ぼ、僕も行きたい…です」 よっしゃ!海決定! と後ろの方で光晴と銀河が騒いでいる。己の策で自滅するなんて情けないと溜め息を吐き出すが、これもまた良い経験となるのだろう。 海であった騒動はまた別の話 end
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