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「あーそぼ!あーそーぼー!」
全く煩い奴だ。
特に用事もないなら話しかけないで欲しい。今は仕事の締め切りが近くてイライラしていた。
「ねぇねぇ、聞いてる?本当に部屋まで着いてくよ?」
「来ないで下さい。仕事の邪魔です」
「神郷ちゃん、最近仕事ばっかじゃん。少しは息抜きしたら?」
息抜き?寝言は寝て言え。
息を抜いている暇はないのだ。
締め切りが近く、いい表現方法が思い浮かばず、まだ3分の2も終わっていない。
「貴方とはしている事が違うんです!邪魔しないで下さい!」
声を荒げて言えば銀河は寂しそうな表情を浮かべる。それを見て胸の奥がグッと重くなる。
「一緒だよ。デザインだって1人でやってると訳分かんなくなって、何も浮かばなくなるよ…そういう時は違うことして気分を変えなくちゃいい物は作れない」
彼の言葉が自然と素直に聞く事が出来た。多分、彼の言葉は正しい。今は息抜きが必要な時なのだろう。
「仕方ないですねぇ、1時間だけですよ?」
「やったー!じゃあ、中庭でバスケしよー?」
「え″!?…運動はちょっと…」
「ダメでーす、もう決定事項です」
それから1時間キッチリ、中庭でバスケをする羽目になったのは言うまでもない。
***
「ねぇねぇ、仕事上手くいった?」
「ええ、まぁ…それなりに」
「へへ、俺っちのお陰だね?」
その気の抜けた笑みが何故だか癪にさらりグイっと頬をつねる。
「いたたたた!神郷ちゃん痛いよ」
微かに目尻に涙を浮かべ、うなだれている銀河の姿が可笑しくクスッと小さく笑う。
「あ!今、神郷ちゃん笑った!」
「笑ってません」
「絶対、笑った!」
「笑ってません!」
彼のお陰で今回の仕事が今までで一番評判が良かったなんて死んでも口にしないでおきましょう。
end
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