序章 飛んで火を撒く夏のムシ Evil_Nest.

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 分かれ道が枝葉のように所々織り込まれている暗く複雑な路地裏を、杖を持った白い少年が歩いている。  幾つもの廃墟が狭い路地に密集するこの一帯には、真昼に燦々(さんさん)と降り注ぐ太陽の光も届かない。地面に散らばるガラス片は廃墟の壁伝いに届く極僅かな反射光を拾って鈍く光り、一歩踏み出す毎にギジャリ、と小気味悪い音を立てる。瘴気、というものが本当に立ち込めているのではないか、と思うほどに空気とその場の雰囲気は不気味なもので、どんよりと重かった。  しかしそれも「表」を歩き慣れた人間に限ったことで、「裏」に生きる住人にはなんとない道程に、少年はカツカツと杖をついて歩を進める。  歩き出して一○分と経たないうちに、バスケットコート一つ分はありそうな少し広い場所に出た。  ところどころに転がる鉛弾が、ここであった銃撃戦の名残を示している。広場に入ってすぐ左の壁際に、人の姿を少年は見つけた(見つけた、というよりは、その頭上に赤々と書かれた大きな文字に視線を誘導された、と言っていいか)。少し目をこらして見ると、それが暗部の者のようだとすぐに分かった。身に付けた武装が、「警備員(アンチスキル)」のモノと違うのだ。  頭(こうべ)を垂れて壁にもたれている男の頭上に、血塗られた文字で表記されるメッセージは、 「"Limit:a half day"ーーーー敵さンもサービス精神旺盛だな。そンな時間かけられてもコッチにはいいありがた迷惑だわ」  心底気怠そうに息を吐き、学園都市第一位の超能力者(レベル5)、『一方通行(アクセラレータ)』は広場を出て狭い通路へとまた歩を進める。  一方通行が歩くこの一帯は、つい先日まで極秘に『多国籍間貿易市場(フリーマーケット)』と呼ばれる闇市場が開催されていた地帯である。その名の通り、自在に場所を変えて開催されるこの国外間との違法取引では、『代行業者(エージェント)』と呼ばれる仲介人を通して、国外へ学園都市内の"機密"が売買される。
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