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「しッかし良い篭り場所を見つけたな。中はさぞ快適なンじゃねェか?」
「そうでもありませんね。買い溜めた食料と調理室があるので食べるものには苦労しませんが、なにせシャワーがないので体臭が臭くてたまりません」
「外人は週一回洗えりゃ気になンねェって聞くが、そォでもないのな」
「幾分綺麗好きなもので。それでも週一回は少しどうかと思いますが」
ふぅん、と興味なさげに応え、一方通行は首をコキコキと鳴らす。
「なンにせよ贅沢な悩みだ、第一級犯罪者のクセしてよ。それよりオマエ、その癇に障る優等生ぶった喋り方どうにかなンねェのか?」
「生まれはいい方でして、喋り方には口煩く注意されてましたので。そういうものが煩わしくて、今ではご覧の通りこの裏世界で生きていますがね」
「上手く誤魔化したつもりかもしれねェが、そりゃオマエが社会から弾き出されてコッチの世界に逃げてきただけだろ、負け犬」
「そうかもしれませんね。何にしろ、私には此方の方がずっと居心地はいいと感じてますよ」
そこで会話が一区切りつく。そこから先は、沈黙があった。一方通行はパレットから少し離れた所に立て膝をついて、ビルの方をぼうっと見ている。 ギクシャクしたカップルの間に流れるような心地悪い無音に耐えかねたパレットは、声をすぼめて、
「あの、取引の件ですが」
「ン? あァ、ドジって人質に取られた財布は無事か? いや、迷惑かけてんだろォな、アイツのことだから。気の毒に思うぜ、オマエら」
「確かに手は焼きますが、彼女は大事な交渉材料です。丁重に扱わせてもらってますよ」
「そっか。お勤めご苦労さン」
そう言って、一方通行は杖を持たない方の手で退屈そうに白い髪をクシャっとかく。武装した人間に取り囲まれているこの状況にとてもそぐわない口取りで適当に会話を繋げる一方通行に、パレットは少し苛立ちを感じながら、
「私はこの交渉を無下にはしないつもりです。貴方方は私達を学園都市外へ安全に飛ばせてくれたらそれでいい。こちらとしては何としてもここは譲れませんね」
「『代行業者(エージェント)』はここに残してか」
「別にそれで構わないですよ。交渉のネックになるのなら、ここでの生活の保証なども一切彼らには必要ありません」
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