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「ハッ、そりゃオマエらがアイツら出し抜いてそっちのけで決めた決定だろ」
だがな、と少し言葉を切ると、一方通行は簡単に言い放った。
「残念だが、どっちも通らねェ案件だ」
その返答を受けて、ピクリと、パレットの眉が僅かに動いた。
「……立場が、まだ分かっていないようですね。今この状況、私の合図一つで貴方の頭部に正確に鉛弾を打ち込む事も可能な訳ですが、それをまだ実感頂けてないようで」
「アー、つまり何が言いてェンだ」
「口の聞き方には気をつけた方がいいということですよ。こちらは有効な交渉材料を二つ持っている。ビルの中にいる財布と、そして貴方の命とね」
「へェ、そりゃあ素敵な勘違いだわ」
一方通行の言葉にピクリ、とパレットの眉が釣りあがった。
「勘違い、ですか」
「俺はここに交渉に来たつもりはねェ。電話でこのクソくだらねェ仕事を押し付けられて、言われるがままここに来ただけだ」
それともう一つ、と一方通行は言葉を切って、
「この状況に舞い上がってるとこ悪ィが、心臓掴まれてンのはオマエらの方だッてことだよ」
僅かな静寂があった。それからパレットはすうっ、と静かに右手を挙げる。
同時。囲んでいた軍勢が、ジャコン!!という銃器の擦れる音と共に、瓦礫の影、廃ビル群の窓という窓から一斉に姿を現した。
一方通行はぐるりと周囲を見渡すと、数にして三◯近い黒い塊が、銃口をこちらに向け殺意をギラつかせていた。
「体の部位一つ落とすのも訳ないが、手荒い真似はなるべく避けたい。強がりはやめて折れてくれませんかねぇ、貴方も」
それでも一方通行はあっけらかんとした感じで、杖に体を預けてくつろぎ、交渉に応じる様子を微塵も見せない。
「(こいつ、何を考えている?本当に交渉に来た訳ではないのか?)」
パレットには、一方通行の意図がわからなかった。交渉に来た訳ではないという。それも囲まれているのを承知で、一人でこの悪の巣の最深まで飛び込んできた。
この男は何のために、我が身を擲(なげうつ)つリスクを犯してまで、ここに来た?
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