序章 飛んで火を撒く夏のムシ Evil_Nest.

6/6
前へ
/6ページ
次へ
 仮に、一人でこの場を打開できる力を持っていたとしても、もう一つの課題である人質の問題はクリアーできない。では人質の解放を放棄して目標の排除を優先するのかと言うと、それも考えられない。人質に取った統括理事会の一人、『財布縫合』には、それだけの価値があることを、パレットは知っていた。  投げやりにも見える一方通行の態度。それでも、この強気な姿勢がハッタリじゃないとしたら。何か裏付けがあるとしたら?  パレットは一方通行を真っ直ぐに見据えて、問いかけた。 「何が、目的ですか?」 「あン? 待ってンだよ」 「待っている? ははっ、何かと思えばジャパニーズお得意の神頼みですか。気の毒ですが、救援の可能性はあり得ない。最も、そのことは貴方が一番よくわかっている事だと思っていましたがね」 「外の奴らなんざ期待しちゃいねェよ」 「何だと?」  パレットの疑問符に、一方通行は人差し指で自分の頭を突ついて、呆れたように応える。 「オマエ、中にいる可能性は考えなかったのか?」  直後だった。  ドゴォオオン!!という凄まじい炸裂音が、不意をついてパレットの耳を襲った。コンマ数秒おいてパレットの背後に硝子の雨が降り注ぐ。  突然の爆発。振り返ると、最上階付近から火の手が濛々と上がっているのが見えた。 「しくじりやがッたか、あの三下が。ったくよォ、柄になくつまンねェお喋りダラダラさせられてイラがきてンだっつーの」 「まさか、貴様……!」 「まァいい。どォせコッチもそろそろ限界だ――――"合図"とみていいな?」  体の調子を確かめるように大きく背伸びをして、首元のチョーカーに触れる。そのまま立ち上がると、ゆっくりと、一方通行は前進を始めた。さっきまでの不安定な足取りが嘘のように、力強く、地面を両の足で踏みしめながら。  その迫力に気圧されたパレットが懐から拳銃を取り出し、後ずさりながら空へ向け空砲を鳴らした。それを合図に黒い軍勢の中の一人がスコープを覗いた。対象の自由を奪うため、その狙いは一方通行の脚へと。空砲は取引相手の横行を鎮圧するために用意した、作戦の合図だった。その後目標を拘束、回収、拷問にかけるも人質にするもアドバンテージは問題なく取ることができる。ここまではパレットの考えうる緊急時の想定範囲内だった。 その後に残る結果を除いては。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

10人が本棚に入れています
本棚に追加