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――どうか屏風を開けないで。こっちの部屋に誰も入って来ないで。母さんが死んだなんて嘘だから――
だが、そんな願いも虚しく、屏風はいとも簡単に開かれ、他者の侵入を許してしまう。
隣部屋から入ってきたその人物は、少年の目の前で立ち止まり、畳みに膝を着いた。
その気配を察した少年は瞼を開け、その人物を見上げる。
そこには自分と同じ顔立ちに、銀髪の少女が赤く腫らした目で少年を見下ろしていた。
「ヒロト……」
少女が少年、ヒロトの名を呼ぶ。
鈴を鳴らした様な、可愛らしい声で。
「大丈夫、だよ?」
「――――っ」
少女の言葉を引き金に、熱いものがヒロトの胸に込み上げて来た。
涙腺が緩み、瞳から涙がポタポタと畳へ落ちて行く。
「ぅっ……ひ……ぅ……」
ヒロトは手の平で口を抑え、大声で泣き叫ぶのを我慢した。
泣いてはいけない。
少女が泣いてはいないのに、自分が泣いてはいけないと、幼いながらの虚栄心がそうさせていた。
嗚咽を押し殺す度に、身体が跳ね上がる。
「くっ……ふっ……ぅう……」
「…………」
少女はそんなヒロトに目を細めると、身体を抱き起こし、背中に腕を回す。
「大丈夫、大丈夫」と呟きながら、その背を摩り出した。
それはまるで、泣きじゃくる我が子を慰める、母親の様に。
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