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それは遠方から届くものではなく、この部屋の中で反響していた。
この部屋、いや、家にはヒロト以外の生きている人間などいない。
けれどその歌は、まるで空気が歌っているかの様に、この家全体に鳴り響いていた。
この家だけじゃない。
歌は均一に、街中全域に響き渡っていた。
家から出ずともそれが分かるのは、ヒロトがこの歌の全貌を知っているからだ。
そして歌を奏でている歌唱者についても……――
(あいつは今どんな気持ちでこの歌を歌ってるんだろう……)
歌の発生源、歌唱者の姿を思い浮かべ、ヒロトは目を細めた。
静かだった屋外も、歌が鳴り響き出したのを合図に、徐々に騒がしくなる。
歌声を殺す、煩わしい程の銃撃音に……悲鳴。
ヒロト以外の隊員も敵兵殲滅に動き出したのだろう。
この歌が鳴り響くまで、派手な動きはするなと、司令官に言い付けられていた筈だから。
とその時、扉を打ち破る音と共に、何者かが家に乗り込んで来た。
それも複数だ。
(あー……また部屋汚しちゃうかな……。ごめんね家主さん)
伝わる筈もない謝罪を、顔も名前も知らない家主にしながら、侵入者達の動向を音で探る。
どうやら侵入者は、各部屋を調べながら進行しているようだ。
味方か敵かは分からないが、恐らく、身を隠した敵兵を探しているのだろう。
やがて足音はヒロトのいる部屋へと近付き……そして――
「――!! 武器を捨てろ!!」
銃口がヒロトの頭に突き付けられた。
銃口を突き付けられたことからして、侵入して来たのはやはり敵兵だったのろう。
いくら薄暗いと言っても、お互いの軍のシンボルカラーは分かる筈だ。
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