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だが、命乞いに今更何の意味があるのだろうか。
ガタガタと身を震わせる敵兵達へ、冷めた眼差しを向けながらヒロトは思った。
自分達は殺す、殺したくないなんて私情で動いているんじゃない。
殺さなければならない、殺してはいけない、そんな義務の下動いているだけ。
時に今の様な戦況下で敵兵に情けを懸けるのは、自身の死に値する。
ましてや始めて対面したこの見ず知らずの敵兵達に懸けてやる情けなど、毛頭――
「……――」
無い。
「ウワ、アァアァ!!」
散弾が放たれ、敵兵達の至る箇所に被弾する。
「がっは……っ」
「全部全部あいつのお陰。ただの付け焼き刃なんだよ? こんなの」
二回目の発砲は心臓部を直撃し、二人を撃ち殺した。
「うあ、あ……化け物……! ぐぁっ!!」
這い蹲り、負傷した足を引きずりながら逃げようとする残りの一人の背を踏み付け、銃口を頭に突き付ける。
「だから早く死んで。でないと……あいつずっと歌い続けることになっちゃう」
ヒロトは、「助けて」と哀願する敵兵へ、躊躇無くその弾丸を打ち込んだ。
{{響き渡れ砂丘を震わす程に
di-Silcua-oz Mafans-Nozes-Gifmeea
tam-Silcua Yelren-Maze.
tam-Harpas.}}
歌だけが響く室内。
ヒロトは天井を仰ぎ見ながら、ぼんやりと霧がかった様な笑で、歌の歌唱者へと思いを馳せ、言葉を紡いだ。
「お疲れ様。アキト」
{{thi-Urgich-rowyec
di-Orshaat-Anfest Teness-Lostulem.
sali-Giya Orx-ez-tam-Chrome
Wandela-Sea-Wigiya.}}
死せる者達にとっては鎮魂歌か。
生ける者達にとっては生命讃歌か。
銃撃音と爆発音、悲鳴がこだます街で、その歌は戦火が鎮火するまで奏でられ続けていた。
――――
――――――
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