第一章〜詠始め〜

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―――――― ―――― カルテナ砂漠に位置する、市壁に取り囲まれた乾燥地帯の街ヴォルテナ。 ヴォルテナの領有権とその地域に充満するネイツゥアを巡った、ソルメシア軍とマナトース軍の闘争は、突如響き渡り出した謎の歌によって、一時休戦へと持ち越された。 そして、そんな戦から二日目。 ソルメシア軍が駐屯施設として借りているヴォルテナ役所のとある一室。 「うまー」 元は役員の喫煙室であったそこは、今は隊員等の休憩室として活用されている。 そんな室内に、何とも気の抜けた青年の声が響き渡る。 クリームパンを満面の笑みで頬張る、一人の青年。 その姿を頬杖を付きながら、保父の眼差しで見詰めているヒロト。 一昨日のヒロトの戦果を知っている者なら、思わず目を疑うだろう。 何故なら冷たい眼光で敵兵を葬っていた人物とは思えない程の、穏やかな笑みをヒロトは浮かべているのだから。 人は見かけに寄らない。 しかし、それは目の前のパンをほうばる青年にも該当する事柄。 「美味しい?」 「うん。美味しい」 ヒロトの問いに、へにゃりと脱力的な笑みを浮かべる青年。 彼こそが一昨日の夜、歌によって兵達を不死身に変え、マナトース軍に甚大な痛手を負わせた張本人なのだと、誰が気付くだろう。 「ヒロトも食べる?」 「いいよ俺は。全部食べな」 彼の名前はアキト。 顔付きも髪の色もそっくりな、ヒロトの双子の弟。 ヒロトと同じくソルメシア軍第二部隊白亜の上等兵。 そう、一応これでも軍人なのだ。 クリームパン一個に至福の笑みを浮かべ、「にゃー……」だとか「みゃー……」だとか、妙な奇声を上げ尚且つ……。 Illustration by.ウユニ子 【アキト・シンドウ】 1e4a4478-4fe8-4bfd-b1e6-377b76b9180f
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