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「あ。 ヒロトヒロト!」
「はいはいなぁに?」
「このクリームパン生クリーム入りだった! これ一個でカスタードと生クリームを一緒に堪能だって!」
このどうでもいいことに一喜一憂し、はしゃぐ子供っぽさ。
軍人らしからぬ……と言うか、どう見てももう直ぐ二十歳を迎える男性の体たらくとは思えない。
そんなアキトの楽天っぷりにはもう慣れたもので、「良かったねー」と笑い返してやるヒロト。
だがしかし、アキトと言う人物は、突拍子もない奇行で突然周りを翻弄仕出すのだ。
本人に悪気はないが……こればかりはさすがのヒロトも予想困難で、度々頭を抱えてしまう。
今だってパンの断面をいきなり凝視し始め……。
「……何やってんのアキトくん」
「ん? いやぁね、どの角度から食べればカスタードと生クリームを同じ比率で食べられるかなぁって」
いや、そんなのどうだっていいじゃないか……とは言えない。
アキトは至極真面目に悩んでいる。
馬鹿なことでも一生懸命悩んでいる。
「…………そうなのですかー」
「そうなのですー」
この性格を一言で纏めるなら『天然』……いや違う、『天然電波』だ。
これが、ソルメシア軍勝機の要だと言うのだから驚きだ。
「んー……」
にしても、こんなヤニ臭い部屋で良くもまぁ美味そうにパンをほうばれるものだ。
何処で食べても良いと言うアキトを、こんな閉鎖空間に連れ込んでしまったのはヒロト自身だが……。
けれど、仕方なかったと思う。
(あんな視線の中食事を取らせるぐらいなら……)
眠りから覚め、姿を現したアキトに向けられたのは、まるで兵器を見る様な隊員達の困惑と恐怖を滲ませた眼差し。
一昨日の勝利は、歌を歌ったアキトの功績によるもの。
本来なら賞賛されるのが必然。
なのに隊員達はアキトから距離を置き、誰一人声をかけることはなかった。
それどころか、聞こえてきたのは『恐ろしい・化け物・生物兵器』耳にして気分を害する言葉ばかり。
その場に居る誰もが、アキトを人として見てはいなかった。
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