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アキト本人は気にしていないようだったが、ヒロトは正直腸わたが煮えくり返そうだった。
誰のおかげでお前達の命があるのか。
アキトの『お兄ちゃんお腹空いた。何か食べたい』の一言が無ければ、隊員と一悶着起こしていた所だったろう。
兄の気を抑える為に出た言葉か。
あるいは本当に腹が減っていたのか。
恐らくどちらも正解だろう。
楽天的なアキトと、そんな弟の面倒を見る保護者の様なヒロト。
兄弟と言うよりは親子の様な二人だが、時々その立場が逆転する時がある。
ヒロトが気を荒立てた時、それを抑え込むのはいつだってアキトの役割だ。
常人に比べて、感情の突起が激しくないアキト。
大らかな性格上、取っ組み合いでも口論でも、なだめる側に立つ事が多い。
そんなアキトの気質には、本当に良く助けられる。
だが、ヒロトは思う。
(嫌な顔ぐらいしたっていいのに……)
己が生物兵器だ化け物だと言われても、アキトは顔色一つ変えることは無かった。
反論したい気持ちを我慢していたからではない。
寧ろそんな気さえ起きていなかったのだろう。
アキトは隊員達の偏見を、本当に気にしていなかったのだ。
けど、ヒロトにしてみれば少しは気にして欲しかった。
哀しそうな表情の一つも見せて欲しかった。
『兵器』
その言葉をすんなりと受け入れてしまっているようで……。
「あ」
とその時、発せられたアキトの声に、落ち込み気味だったヒロトの思考は中断させられる。
「今日の予定って、奏術技特化訓練だっけ?」
不意に思い出したかのように、クリームパンから目を逸らし問いかけてきたアキト。
「うん。明後日の明朝作戦に向けての訓練でしょ。お前にはあまり必要無いと思うけど」
(比率はもういいの?)
「ふーん。じゃぁちょっと待ってて。 急いで食べちゃうから」
そう言って再びクリームパンにかぶりつく。
「……ゆっくり食べなねー……」
(比率は…………もういいのか)
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