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「う、あ……」
ヒロトの間近にいた隊員が、熱中症により倒れた。
当然だ。
この六十度近くの暑さの中、高速で動き回るヨーウィーを相手にしろと言うのだ。
それも一匹や二匹じゃない数を。
足場は蓄積した砂により動き難いし、普段の魔物相手の訓練より、かなり体力を消耗する。
医療隊に担がれて行く隊員を横目で見ていたヒロトだったが、不意にヨーウィーが飛び掛かって来る気配に気付き、咄嗟に手に持っていた支給品ナイフで受け流す。
だが……。
「ヒロト!! これは奏術技の訓練だ!! ナイフは極力使うなと言っただろう!! よそ見をするな!!」
「……ッサー!!」
そう返事を返し、ヒロトは奏術技発動の準備に取り掛かる。
ヨーウィーの前に、まずは体内に蓄積した熱をどうにかしなければ。
身体を思うように動かせないこの状態では、殲滅所ではない。
「低レベルの魔物などに手間取るな!! 熱に浮されるならその熱を自分でどうにかしてみろ!!」
無茶を言っているように聞こえるが、ナギサはこう言っているのだ。
奏術技で己の体内に蓄積した熱を排除しろ、と。
恐らく今回の訓練の趣旨は、奏術技の特化だけが目的なのではなく、あらゆる場に置いて、いかに己の体温を調節、維持出来るか。
その術を探らせ鍛える為の訓練なのだろう。
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