-モウ一度- DEAR @ngel

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「チッ…ついてねぇ…」   左肩を撃たれた。 両手共血でベトベトで、ライターがまともに掴めない。   「…死ぬのか…?」   少し笑えた。   「それもいいか…」   「煙草………火付けてあげようかぁ?」   誰かが、血まみれでゴミの山に倒れ込んでいるあきらかに不審な俺に、話しかけているようだ。   「死んでんの?」   「うるせぇ…」   そいつは俺の顔を覗き込んだ。   血まみれの俺を見ても、顔色一つ変えない。   「…んだよ、お前…」   「俺?天使」   ―――――――――   自分のデスクに戻ると、山積みの書類の一番上に、あの人の写真。   「青山さん…お疲れ様」   「…うん…」   隣のデスクの網野が、自販機のインスタントコーヒーを二つ持って、写真を見つめていた。   「撃ったの…?」   「…あぁ…」   「そうですか…」   「……」   返す言葉も思い付かず、変わりに溜め息を吐いた。   ――「今、人を殺した」   通報なんて思わなかった。 ましてや自首だ。 ついさっき「お疲れ様」と声をかけ、別れた俺の先輩刑事。   ――石田 隆也   彼の下で仕事をしてもう五年だった。 いつもの冗句だと思った。   「はは、酒飲んでんですか?」   「いや。二人、撃ち殺した」   いつになく、静かな声。   「…誰、殺したんですか…?」   信じた訳ではなかった。 ただ、もしも本当に殺したとしたら、誰を殺したのか。   誰を殺した、という冗句を言うのか。   「医者を二人」   「え…?」   「指紋はばっちり残したぜ、明日の新聞には出るだろうから…現場で会おう」   電話は切れた。   俺とタカヤさんの間で、二人の医者と言えば…心当たりがあった。   成瀬と、大谷。   二人とも若い医者で、事件の時知り合った。   ガキみたいな大谷と、その保護者みたいな成瀬。   よく四人で飲みに出た。   翌日、全国指名手配犯、石田 隆也の名が、様々なところで耳に入ってきた。   そして、俺はこの事件の捜査から外された。   「心中を察して」との事で。   「降りた方がいいんじゃないか…?」   網野からこの言葉を聞くのは何度目だろう。   だが、そう言われる度、同じ言葉を返した。   「あの人は、俺を待ってる」
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