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 そのターミナル駅の2階出口はロータリーの上を跨がる遊歩道になっていて、赤銅色の煉瓦敷きの造りのあちこちに、植え込みやらベンチやら案内板やらが備え付けてある。大きな駅なのに人通りはほとんど無く、下のロータリーを見渡しても車の影はまばらで動く気配が無い。遊歩道は駅を背にした眼前に広がる商業ビルの群に向かって枝分かれしており、さながらターミナル駅と街の各所を繋ぐ動脈の様だ。  空では強い陽射しを薄く広がった雲が和らげていて、僅かだが風もある。だがそんな過ごし易さも、今はまるで活気の失せたこの駅前の風景の不気味さを助長しているに過ぎない。  僕は、乱立するビルの間にある建物を目指して歩いた。細く枝分かれした遊歩道が2つのデパートの隙間へ伸びており、その陰に陣取っている4階建ての、これまた遊歩道と同じ煉瓦造りの建物。テナントとして入っているのは半分がレストランで、他には1階に花屋、2階に雑貨屋、3階は何かのカルチャースクールで、4階はどこかの会社の事務所。そして屋上は、まさにここが僕の目的地なのだが、発着場である。  こんなビル陰のしかも空中に一体何の発着場かというと、これがなんとボートなのだ。もちろん、手漕ぎではなくエンジン付きの、だ。僕が外付けの階段を上がって屋上に出ると、遊歩道の駅前部分にあったような広場になっている。植え込みがあり、ベンチがあり。その隅っこで、船長がパイプを吹かしながら僕を待っていた。
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