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その1
『レストラン』
若い男が、一人の女を人質にとってレストランに立てこもっている。
男は女の喉元にナイフを突き付け、周囲を牽制しているのだが…
男「…おい。お前、何か言えよ。きゃー!とかいやー!とか。」
女「きゃー。いやー。」
男「やる気無!? おま…怖くないのか? ほら、本物のナイフだぞ?」
女「いえ、仕事柄見慣れてますから。」
男「どんな仕事してんだ…」
女「当ててみてください。」
男「は? …んー…」
男、律儀に考え込むが、女の大きなため息で思考を中断させられる。
男「どうした?」
女「もういっそ、殺してもらえませんかね? 私のこと。」
男「はぁ?」
女「実はさっき、彼氏にフラれて。あまりにもひどいフラれ方だったんで、もう生きる気力無いんです。」
男「えっ…ああ、そう…」
女がとてつもなく暗い歌詞の歌を口づさみ始めたので、男はドン引き。
そんな男の様子を知ってか知らずか、突然女が歌うのをやめ、
女「そういえば。さっきの答え出ましたか?」
男「えっ、さっき? …ああ、仕事の。いや全く。」
女「そうですか。では、タイムアップです。」
男「は?」
すると、さっきまでの気だるそうな雰囲気からは想像もつかないような早業で、女が男を組み伏せてしまった。
そして、ポケットから何やら黒い手帳を取り出し周囲に見せる。
男「な…!?」
女「警察です。私一人では対応しきれませんので、誰か応援を呼んでいただけますか?」
男「くそっ…全部演技だったのか!」
女「いえ、別に全部というわけではないです。」
男「なんだと…?」
女「彼氏にフラれて死にたいのは本当です。」
男「…」
女「…憐れみの目線を向けるの、やめていただけます?」
〈END〉
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