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序章 花残月
「なぁ、会長。この時期に転校生?」
「何か事情があったのでしょう。」
いぶかしげな男子生徒に会長と呼ばれた男子生徒はやんわりと返した。
「大神明(おおがみ あかり)1年生ですね。もう少し早かったら、我が校の伝統ある入学式を受けられたでしょうに。」
会長が見ている転校生のプロフィールを一緒に覗き込む男子生徒。
「なんだ。こいつ。」
男子生徒の表情が急に険しくなり、不快感を露わにした。
「まぁ、そんなに毛嫌いせずに。この生徒を知っていますか?」
「いや。なんか見た感じ…嫌いだ。」
ムスッとした表情で黙り込んだ。そこへもう一人、女子生徒が入ってきた。
「何を怒ってるの?」
「怒りっぽいのは昔っからだって知ってるだろ!」
そういうと部屋から出ていってしまった。
夕暮れ時というには少し暗くなり始めたころ、男女二人の生徒が校舎から出てきた。一人の女子生徒がふと花壇に目をやった。それに気づいた男子生徒がたずねた。
「どうした。」
「悲しい声が聞こえる。」
女子生徒の視線につられて男子生徒も視線を移すと、サッカーボールに押しつぶされたパンジーたちだった。未だにサッカーボールが花たちを押し潰していた。
「誰がやったんだよ。」
男子生徒の表情が急に強張り、怒鳴り声を上げた。二人は花壇に近づき、女子生徒がサッカーボールを持ち上げ、今にも泣きそうな表情の女子生徒が腰をかがめて折れたパンジーたちに触れた。男子生徒も同じように腰をかがめて花に手をかざした。
すると、闇の色をしたモヤのようなものが立ち上り、次第に人の形に成っていった。闇色の人形(ひとがた)は泣いているような仕草をしていた。すると、女子生徒はその人形をそっと抱きしめた。
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