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長く厳しい冬を終え、春の芽吹きがそこら中に広がっている。
この時期は何処の村人も種蒔きの準備をする為に畑を耕す。
グラオも例にもれず、自分の畑を耕しに来ていた。
「なんだ?」
鍬を手にしたままグラオは自分の畑の前で、全身真っ黒な少年がボーッと立っているのを見つけた。
黒い髪に黒い衣服を身につけた少年は、どこをどう見ても不審者でしかなく、グラオは眉をひそめる。
そんなグラオの視線に気付いたのか少年は振り返った。
その瞬間、少年のその瞳とかちあい、グラオはその色彩に「珍しい」と目を瞠った。
なぜなら髪の色だけでなく、瞳の色さえも黒を持つ者などまずいないからだ。
「君、そんなところで何をしているのかね」
グラオはとりあえず、少年に声を掛けてみることにした。
「……あの、ここは何処ですか?」
躊躇いながら尋ねてきた少年にグラオは答えた。
「ここはカルモ村だよ」
「カルモ村?」
「ああ、グランツ王国の東にある小さな村だよ」
「グランツ王国?」
「まさかグランツ王国を知らんのかね」
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