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主さまの屋敷には、常に傍に居る妖と、百鬼夜行時のみ集まる妖で分かれている。
特に息吹をあやしたり、主さまの目を盗んで息吹に触ったことのある妖は、夜になると必ず集まるようになっていた。
「今日も百鬼夜行は中止らしいぞ。仕方ないから息吹をからかってまた遊んでやろう」
あの小さな赤ん坊はどれだけ怖がらせようとしても絶対泣かず、逆に主さまと山姫が離れて行こうとすると火がついたかのように泣くようになっていて、百鬼の中では賭けが始まっていた。
「主さまと山姫以外で息吹を泣かせた者は息吹を触り放題でどうだ?」
「それはいいな!あの美味そうな手でも舐めさせてくれたらもっと嬉しいんだが」
「お前たち…俺の食べものを舐めようとするなど数千年早いぞ」
いつの間にそこに立っていたのか…
手拭いを肩に引っかけた主さまが、籐で編まれた揺り籠の中から息吹を抱っこして皆から残念がる声を上げさせた。
「生臭い息を息吹に吹きかけるな。不味くなる」
「主さまは息吹とどちらへ?」
「風呂だ。今日は俺が入れるんだぞ。いいだろう?」
鼻を鳴らして自慢がって、山姫が着物の袖をまくって腕まくりしながら息吹を主さまから奪おうとするが譲ってくれず、風呂場に着くと一旦息吹を山姫に預けて、着物を脱ぎ始めた。
帯を外した時、まだそこに山姫が立っているので、顎を取って上向かせる。
「一緒に入るつもりか?入るだけでは済まさんぞ」
慌てて脱衣所から出て待っていると…
「入って来い」
「は、はい」
戸を開けて風呂場に入ると、桧の浴槽に長い脚を伸ばして寛いでいる主さまと目が合い、湯を身体にかけてやっていた。
「どうやればいいんだ?」
「ゆっくりゆっくりですよ、溺れたら大変ですからね」
しっかりと息吹を受け取り、ゆっくりと腕に抱いて湯に浸からせると、ふんわりと息吹が笑った。
「気持ちいいか?そうかそうか」
手拭いで身体を拭いてやり、まだまだ全くといっていいほど女ではない息吹の頭を撫でて、にたりと笑った。
「美味くなれ。骨まで食ってやるからな」
――さて、そんなにうまくいくか?
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