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息吹の夜泣きがひどく、そういう時はいやいやながらも主さま自らが抱っこをして庭を歩き、その後ろを妖たちが百鬼夜行の時のようについて回る。
「ちょっとだけ!ちょっとだけ触らせてくださいにゃ!」
猫又がしつこく食い下がれば思いきり脚で蹴られ、
姑獲鳥(うぶめ)と呼ばれる人間の赤ん坊をさらっては我が子として育てる女の妖が無言で手を差し伸べれば、傍にあった重たい石をいとも簡単に持ち上げて手渡し、ぎらりと睨みつけた。
「これは俺が育ててるんだ、お前の手は借りない」
――なかなか触らせてもらえず、主さまを寄ってたかって囲んでいる百鬼たちを屋根から見ていたのは雪男だった。
「お前は抱かなくていいのか?」
「…俺があんなの抱いたらすぐ氷漬けになっちまうっつーの」
一つ目に一つ足のからかさ小僧はぴょんぴょん跳ねながら屋根から飛び降りると、主さまの前に立った。
「主さま、雪男が“そんなの抱きたくねえよ”って暴言吐いてます。許せないですよね」
「そ、そんなこと言ってな…」
主さまが屋根の上の雪男をゆっくり見上げた。
“抱っこしたい”と言われると抱かせたくないが、“抱っこしたくない”と言われれば、無理矢理にでも抱かせたくなる。
気まぐれでひねくれ者の主さまは雪男に顎で降りてくるように命令すると、目を合さずに目の前に立った雪男の腕に息吹を押し付けた。
「抱け」
「え」
「凍らせるなよ、もし凍らせたらお前を熱湯風呂に突っ込んでやる」
――なるべく直接触れないようにするために、着物の袖で指まで隠すと息吹を抱っこして、見下ろした。
「きゃっ、きゃきゃぅっ」
脚をばたつかせながら喜んでいる息吹に、雪男の氷のような心が少しだけ溶けて、にやにやしている主さまの視線に気付いて慌てて息吹をまた主さまの腕に押し付けた。
「世話係決定だな。俺が寝ている間はお前が山姫と一緒に世話をしろ。命令だからな」
「なっ、なんで俺が!?」
「嫌がらせに決まってる」
…主さまはとにかく性格が悪い。
息吹が雪男に抱っこされて喜んでいるのを見て、かなり嫉妬していた。
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