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日本のとある場所に、幽玄橋という橋がかかっている。
そして人々は、その橋を絶対に渡らなかった。
何故ならば…
その先にあるのは、妖が支配している町があるからだ。
――そこで暮らしている人間たちは、妖怪の主である“主さま”が治める幽玄町から一生出ることはできない。
…主さまは女しか食わない。
主さまの姿を見た人間は、誰も居ない。
食われるその瞬間にしか、その姿を見ることはできない。
…幽玄橋の前には、常に金棒を持った赤鬼と赤鬼が立っていた。
夜は鬼火が辺りを青白く照らし出し、あの先の幽玄町へ入る者は、人生を悲観している者たちだけ。
だが幽玄町で暮らす人間は、昼間は普通の人間と何ら変わらない生活を送っている。
主さまに食われることは最高の名誉。
その血となり肉となり、共に永遠を生きることができる。
だが夜になると外出禁止令が出て、通りを歩くことはできない。
歩いてもいいのだが、妖怪に食われる覚悟で歩かなければならない。
今日も百鬼夜行が行く。
主さまが率いる妖怪の大集団は人間に恐怖を植え付けながら、今日も行進する。
『百鬼夜行に出会うと死んでしまうよ』
だから夜が更けると、人々は戸を固く閉ざして外には出ない。
これは、主さまの物語。
主さまが出会った息吹(いぶき)との、物語。
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