息吹、拾われる

7/25
前へ
/121ページ
次へ
数時間ごとに息吹が泣いて、その度に山姫が分けてもらった乳を与える。 興味津々で集まった百鬼たちに大広間で囲まれて、実はこうして主さまの傍に居られることは少ないので、皆が離れたがらなかった。 「ちっ、鬱陶しいな、どこかへ行け」 「今日の百鬼夜行は中止なんでしょう?皆暇を持て余しているんですよ」 「しかし息吹は腹が減った時以外は泣かんなあ。大した子だ」 庭には鬼火が飛び交い、池には河童が居たり、犬神や猫又がうろついていて、人は息吹だけだ。 また人で主さまの姿を見た者は居ない。 時々気まぐれに幽玄町の美女を選んではまず身体を抱いて、その後…食われる。 食われてもいい、と思わせるほどに主さまの美貌は際立っていたが… ただ…性格はとても悪かった。 「では主さま、しばらくは百鬼夜行は中止なのですか?」 「息吹が寝ている間ならいい。あ、おい、勝手に触るな」 息吹の頬にちょんと触れた猫又の鋭い爪を見た主さまが首根っこを?まえると、切れ長の瞳に殺意の光を瞬かせて睨んだ。 「爪を全部切ってやろうか?血管まで切ってしまうかもしれんが」 「ご、ごめんなさいにゃっ」 虎柄の猫又が慌てて爪を引っ込めてふたつに分かれた尻尾を振った。 その間も息吹はじっと主さまを見つめていて、ついふっと笑ってしまった主さまが皆の視線に気付き、息吹を抱き上げると立ち上がった。 「主さま、どちらに?」 「もう寝かしつける。人の子は夜に寝るものだぞ」 「息吹、また明日な」 「明日は爪を研いできますにゃ」 皆が次々に声をかけて、何だかちょっと誇らしげな気分になった主さまが自分の床に息吹を寝かせて、自らも隣に寝転ぶ。 「おい、あとどの位待てば大きくなるんだ?美味くなるように俺が大切に育ててやるからな」 息吹が欠伸をして、主さまもつられるように欠伸をする。 夜はまだまだ始まったばかりだったが、そのまままた息吹と一緒に朝まで眠り込んでしまった。
/121ページ

最初のコメントを投稿しよう!

174人が本棚に入れています
本棚に追加