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“妖たちが人間の子供を育てている”
幽玄町の住民たちの間に、あっという間に広がった噂話にはすでに尾びれがついていて、一人歩きを始めていた。
「主さまが人間の女との間に作った子供らしい」
「俺は山姫と主さまの間に生まれた子だと聞いたぞ」
妖に支配されている町であり、それ以外は普通の人間と変わらない生活を送っている彼らは、悪さをせず、夜に外出しなければ妖に食われることはない。
あと、あの幽玄橋の前に立っている赤鬼と青鬼。
この町がいやになって出て行こうとしても、あの2匹の鬼が立ち塞がって出て行けないのだ。
なので興味の対象はもっぱら、姿を見たことのない主さまに向けられていた。
「ああ、暑い…暑い…」
「や、山姫だ」
ふらふらと前から歩いてくるのは件の山姫で、白い着物を着た美女の妖は最近度々人間の家を訪れていた。
「乳を分けてもらっているそうだぞ。だが乳を与えている女は口を割らんのだ」
――山姫はその噂話を知っていたが、乳を分けている人間の女には大枚をはたいていて、口封じをしてある。
“もし本当のことを喋ったら、お前の赤ん坊の生き血を啜ってやるからね”
妖らしくそう脅して金を握らせて、だからこそ真実を知る人間は居ない。
「本当に主さまは赤ん坊を育てているんだな。…何のために?」
山姫にも人々が噂している声は耳に届いていたのだが、別にどう思われてもいいのでふらふらしつつも足早に主さまの屋敷に戻り、息吹の大泣きする声を聞いて慌てて草履を脱ぎ捨てると、困り顔の主さまから息吹を奪い取って乳を飲ませた。
「主さま、今日は襁褓(むつき)の替え方を伝授しますからね」
「…襁褓?!俺はそんなものは替えんぞ」
「じゃあ息吹はあたしが預かります。時々抱かせてあげますからね」
…時々嫌味を言って来る山姫を睨み、赤い髪紐で結んだ髪を背中に払いのけてぞんざいに手を伸ばした。
「…貸せ、俺がやる」
「この次は風呂の入れ方を伝授します。ほーら、主さまがどんどん父らしくなってきたねえ」
「きゃきゃっ」
息吹が笑い声を上げて、主さまがため息をつく。
山姫の扱きは想像以上だった。
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