修吾

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リサも追うようにして玄関を出て、門のところまで行き通りを見渡したが、もうどこにも男性の姿はなかった。その日を最後にもう二度とその男性は姿を現す事はなかった。さらに数年が経った。リサの夫は定年を迎えた。大学生の千夏と家族3人の幸せな日々が続いた。 その夫が突然亡くなったのは冬の事だった。心筋梗塞によるものだった。さらに数年後、大学を卒業して某企業に就職していた千夏が職場の同僚の男性と結婚して、家を出て行った。リサは独り家に残された。もう70歳を超えていた。家にいても一人、表に出ても一人だった。時には彩乃と喫茶店で話すこともあったが、彩乃も高血圧で体調が芳しくなかった。リサは杖を突いて散歩に行き、公園のベンチに座って、一人の時間を過ごすことが多くなっていた。 それは、ある秋の夕暮れの事だった。いつものように、リサは独り、公園のベンチに腰掛けて、ぼんやりと空を眺めていた。 その時、一人の老人がベンチに近づいて来た。老人は、リサに、 「隣に掛けさせて頂いても、ご迷惑ではないでしょうか?」 そう尋ねた。老人はジャケットにマフラーをして、白い口ひげをはやした背の高い男性だった。
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