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リサが、
「バッグを返して!」
そう叫ぶより早く、修は走り出していた。
「修、危ないからやめて!」
叫んだが、修にリサの声が聞こえたか聞こえなかったのか、修はバイクを追って走り続けた。修はやがてバイクに追いつき、運転手の腕に飛びかかって噛みついた。バイクはバランスを崩して倒れ、運転手ごと路面を回転した。投げ出されたバッグを修がくわえようと近づいた時、反対車線から走って来たタクシーが修の体を宙に飛ばした。修は7メートル離れた路面に叩きつけられた。遅れて、リサが駆けつけた時、修は涙を流して、体を痙攣させていた。鼻から血が流れ続けた。リサは修を抱きしめた。
「修!修!しっかりして!」
リサの目から涙がとめどなく流れた。修は既にリサの方を向くこともできなかった。ただ、前方を見据えたまま、苦しそうに息をした。やがて、口からも血が流れ修の呼吸は止まった。
「修!修!修!貴男はあのバッグを取られたくなかったのね」
リサは修の顔を優しく撫でた。
「貴男はまた、私を残して死んでしまうの。また、私を一人ぼっちにするの!」
リサの絶叫がいつまでもいつまでも、辺りに響き渡った。
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