修吾

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リサの埋没しかけた遠い記憶が掘り起こされるような出来事は、ある日突然やってきた。リサは担当地区が変更になり、湘南の海に面した静かなホスピス「光の家」に、薬品を納入することになった。 その日は灼けつくような暑さだった。蝉がけたたましく鳴いていた。リサは薬品の箱を重ねてカートに乗せ、片側海に面した施設の廊下を運んでいた。すると、向こうから、車椅子に乗った十代前半くらいの少年が看護士に押されてやって来る。少年はガラス越しにじっと海を見つめたままだった。外には芝生越しに、白い砂浜が青くうねる波打ち際まで続いている。 ―まだ若いのに…癌かしら?― その時、少年が右手人差し指で鼻を掻いた。 思わずリサは足を止めた。忘れていた修吾の記憶が突然、リサに蘇った。しかも、鮮烈に…。 少年が近づいて来た。リサは思い切って声をかけてみた。 「君、さっきから、ずっと海を見ているけど、海好き?」 車椅子が止まった。リサは看護士に、 「すみません。お呼び止めして」 「大丈夫です。急ぎませんから。ごゆっくり…」 「ありがとうございます」 リサは頭を下げた。 リサはしゃがんで、少年の目線になった。
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