修吾

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「懐かしいわ。あれから、何年になるのかしら?ちっとも変わってないわね。あの頃のままだわ」 目の前に広がる斜面には一面にニッコウキスゲが風にそよいでいる。その時、車椅子に乗って景色を見ていた航平が、背後のリサを振り返った。 「リサさん、向こうに見える白樺林の方に行けますか?」 「行ってみたい?」 「はい」 「じゃ、行ってみようか」 リサは車椅子を押した。 ―前世の記憶が残っているとしたら?私の事を思い出してくれるかしら?― 今回の信州行きをリサが思いついたのは、航平をこの場所に連れて来たかったのだった。何かを思い出してくれるかも知れないと期待しての事だった。航平を乗せた車椅子は白樺林に入って行った。 航平は白樺の木に触れた。 「リサさん、白樺って、良いですね。『光の家』にも、こんな林があったら良いのに」 「そうね。頼んで植えてもらおうか?」 「リサさん、あそこの木のところに行ってもらえますか?」 航平が指差したのは修吾がハートマークを刻んだ白樺だった。歳月が経ち、ふた周り程太くなっていた。修吾が刻んだハートマークも木の成長と共に、人の背より高い位置になっていた。車椅子の航平には手の届かぬ位置だった。
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