修吾

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あれから20年近くの歳月が過ぎ、ハートマークも判別しにくくなっていた。航平はハートマークには気づかず、その1メートルくらい下の辺りをしきりに撫でている。しかし、リサにはそれだけで充分だった。 ―今、目の前にいるのは間違いなく修吾。姿形は変わっても間違いなく修吾なのよ。― そう思うと、胸が熱くなり、思わず涙が流れ落ちた。声を殺して泣いた。その気配に航平が振り向いた。 「リサさん、どうしたの?泣いたりして」 「ごめんね。ずっと昔の悲しい思い出を思い出しちゃった」 リサは涙を拭った。 それから、リサは週末になると、航平を連れ出した。航平が行きたいと言う場所には可能な限り行った。しかし、秋が深まり木の葉が色づき始めた頃から、航平は体の不調を訴えるようになり、外出もできなくなった。航平からのメールも次第に数が減り、返信も滞った。 [リサさん、僕は強い人間になりたい。でも、時々、心が折れそうになります。] [つらかったら、我慢しないで良いのよ。愚痴なら私が聞いてあげるから、いつでもメールしてね。]
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