修吾

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夜明け前の薄明かりの中で、航平は、その枯れ木のようにやせ細った体をベッドに横たえていた。彼の母親も枕許にいた。リサが夫を廊下に残して入って行くと、母親が静かに航平の耳元で言った。 「リサさんが来たわ」 すると、航平は微かに目を開けた。 「リ・サ」 航平はかすむ意識の中でリサを呼んだ。 「何が言いたいの?」 リサは航平の口元に耳を近づけた。 「あ・り・が・と・う・し・ゅ・う・ご」 それは、リサ以外の誰にも聞き取れないくらいな微かな声だった。しかし、リサには確かにそう聞こえた。リサの頬を涙が一筋流れた。 リサは言葉に出さなかった。じっと、航平の目を見て思いを伝えた。 ―また、いつか、会いましょうね― そのリサの思いが通じたのか?航平は微笑んだ。そして、そのまま、眠るように息を引き取った。リサは航平の死に顔を見つめたまま、黙って、涙を流し続けた。
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