修吾

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「ええ」 リサは正面を向いたまま、老人の顔も見ずに返事をした。 「この公園にはよく来られるのですか?」 老人が話しかけて来た。リサは初めて老人の方を見た。見るからに人の良さそうな老人だった。 「はい、毎日、持て余す時間をここで過ごします」 リサは答えた。 「そうですか。木々の葉が次第に色づいてゆきますね。葉は梢を離れる時が一番美しい。そう思いませんか?」 「そうですね。色づいてゆく葉を眺めるのは私も好きです」 「人間の人生も終わり際こそ、美しいと私は思います。また、そうありたいと願っております」 「そうですね。美しく老いてゆきたいですね」 「私は今、身寄りのない一人の老人に過ぎない。しかし、できれば、愛する人と共に、老後を楽しめたら、老いの日々もまんざら捨てたものじゃないと思うのです」 そう言うと、老人は右人差し指で鼻を掻いた。リサは思いもかけない老人のクセに全身が熱くなった。心臓の鼓動が早くなるのを禁じ得なかった。老人はさらに続けた。
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