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「修、待って!」
リサは叫ぶと修の後を追った。修はゲレンデから外れた白樺林の中に入って行った。そして、一本の白樺の木の前に行くと立ち止まって、哀願するように鼻を鳴らした。
「どうしたの?」
リサが修に近づいた。リサはしゃがんで、修の顔を見た。そして、次第に顔を上げてゆくと、白樺の木の肌にナイフのようなもので傷つけた跡があった。リサは立ち上がると、指で木の肌についた汚れを落とした。「あっ!」
リサは言葉にならなかった。ナイフで削ったらしい不格好なハートマーク。その下に刻まれていたのは、シュウゴ・リサ。それは、一昨年、サークル仲間と共に、スキー合宿に来た修吾が密かに刻んだものに違いなかった。
「修吾!修吾なの?」
リサはいとおしそうに修吾が刻んだ文字を指でなぞった。涙がポロポロとあふれ出た。リサは修吾に抱かれた時の、その肌の温もりを今さらのように思い出していた。
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